先週、Googleは、米国特許を対象とした特許検索サービスとして、Google Patent Searchを始めました。この件については、ITmediaのニュース、CNETのニュース、パテログなどで、報じられています。
使ってみた感触としては、米国特許商標庁(USPTO)の特許検索ページと比べて、ずっと使いやすいものでした。
Google Patent Searchでは、検索結果から選ぶと、まず、概要・請求項・図(最初は3個)・参照特許を1つの画面で見ることができます。他の特許からの被参照情報も載っていますが、ちょっと少ない感じです。ちなみに、USPTOの特許検索ページでは、各特許の最初の表示画面はテキスト表示で、図は出てきません。検索結果の画面の「Images」のボタンを押して始めて表示されます。
また、Descriptionを含む全文(明細書イメージ)を読むための画面では、Ajaxを使ったなめらかなスクロールが可能です。"Search within this patent" ができるのも便利です。検索語は、検索結果の明細書の上にカラーで強調表示されます。
ダイレクトリンクも可能です。例えば、Method and system for managing attraction admission (U.S.Pat.No. 6,173,209)は、ディズニーランドのファストパスの仕組みと思われる特許へのダイレクトリンクです。(これは、日本でも昨年特許化しています。特許第3700833号。私の「eビジネス」の授業の中で情報システムの特許の例としてあげました)
Googleは、他の国でも、同様な特許検索サービスを行う計画とのことなので、日本の特許の検索もサービスされるようになるのでしょう。日本の特許庁の特許電子図書館のサービスは、最悪(ユーザインタフェースの悪さ、メンテナンス期間の多さ・長さなど)なので、日本でサービスされた場合には、多くの人は特許電子図書館よりもGoogleのサービスを使うようになるでしょう。大企業のメーカー等でよく使われている有料の特許検索サービスも大打撃でしょうし、単純な特許検索機能はサービスをやめてしまって、特許マップ機能といった高付加価値の機能だけを提供するところも出てくるでしょう。
使ってみていて、この検索サービスの検索結果のランキングの求め方(どのような順番なのか)について、疑問を感じました。About Google Patent SearchのページのFAQを見ると、"We use a number of signals to evaluate how relevant each patent is to a user's query" と書かれていました。ページランクのように特許間のリファレンス関係を使っているかと思いましたが、やはり、そういうことはしていないようです。論文と違い、米国特許での他特許のリファレンスは弁理士が調べて加えていたりするので、あまり参考にならないでしょう。
Googleが、どのようにビジネスにつなげるかも興味深いところです。単純に、特許検索の結果画面に検索連動型広告を出すだけとは思えません。多くの人が参照している特許を持つ企業や発明者について、一般の検索でのページランクを上げるようなことをするかもしれません。そのように考えてゆくと、もしもGoogleが特許検索をほぼ独占してしまうと、とても恐ろしいことになると気づきました。特許は、一般のネット情報よりも、専門的でありビジネス上で重要な情報であるためです。一般のネット情報の検索ログを集積したデータから「一般大衆の興味」に関する情報を抽出することができますが、特許の検索ログを集積したデータからは「産業上の関心」に関する情報を抽出することができるのです。
以前(たしか1997年)、一時、IBMがネットで無料の特許検索機能を提供しました。その際、他のコンピュータメーカーは、警戒して、会社からそのサービスを使うことをためらった、と言われます。なぜなら、その企業がどの特許に関心があるかをIBMに感づかれてしまう危険性があるためです。IPアドレスでアクセス(検索)した企業を調べることができるため、参照状況から関心度をうかがえるためです。
それと同じように、Google Patent Search が広く使われるようになった場合には、Googleは、どの国のどの企業がどの特許に関心があるかが分かってしまいます。Googleは「悪いことはしない(Don't be evil)」と言っていますが、このような情報を「悪用」できます。例えば、どんな技術が期待されているかがこっそり分かるため、期待されている技術を持つ会社へ先回りして投資することで、大きな利益を得ることができるでしょう。また、どの国がどの技術分野に関心があるかもリアルタイムで分かるようになるので、国際間での技術の売り込みなどでの交渉に関わることができるようになるでしょう。Google自身ではしなくとも、そのようなことを行うための情報を高く売るかもしれません。そのように、特定の民間企業に、幅広い業種の国際的な「産業上の関心」に関する情報が集まってしまうのは、とても危険なのです。
このような理由から、Googleに特許検索の独占を許してはならないと強く感じています。
日本で、情報大航海プロジェクトが政府中心で進んでいます。しかし、私は、政府には一般の検索をターゲットにはせずに、特許検索や論文検索だけに注力してもらいたいと思います。特許検索や論文検索は、検索ログがとても大きな意味を持ち、国の科学技術政策やイノベーション促進の政策に関わるため、オルタナティブの提供の意味は大きいです。特許検索や論文検索だけは、Googleのような民間企業に独占されないように、必死で取り組むべきだと思います(規制するのもおかしいですので)。
[追記]
弁理士の的場成夫さんのブログによると、既に「とある企業では、会社のアドレスからのアクセス禁止 の指令が出ているとのこと」です。
Recent Comments