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August 21, 2011

電力会社の体質変革のための制度案(朝日新聞「声」への投稿の補足)

 これまで、私のブログでは、原発関連の問題について次の2つの書き込みをしました。
 ・原発利用は「トランス・サイエンス」問題
 ・原発を電力会社に安全に運営してもらうための制度案

 最近、政府が原発の監督機関を変更することを決めたため、この機会に原発に関しての制度をもう一度考え直しました。やはり、福島原発事故後の東京電力の対応の問題、九州電力のやらせ問題などは、電力会社の体質的な問題といえるでしょう。公共サービスを提供する企業という自覚がなさすぎると痛感します。そのため、規制や監督を強化するだけでは、原発の安全性を高めるのには不十分でしょう。人の面の制度が望まれます。このような問題はあまり議論されていません。そのため、朝日新聞の「声」に投稿したところ、運よく採用され、本日の朝刊に掲載されました。以下、引用します(この部分の著作権は朝日新聞社が有しますのでご注意ください)。

電力会社は原発近くで研修を  幡鎌 博(2011年8月21日付 朝日新聞「声」より)
 政府は環境省の外局として原子力安全庁を設ける方針を決めた。従来の原子力推進から、環境規制を中心に置く組織体制に変えようというのは評価できる。しかし、それだけで十分か。もうしばらく原発を稼働させるのであれば、安全運用を徹底させるための制度を色々と工夫すべきだ。
 電力会社にはそのため、いま以上に原発についての社会的責任を強く感じてもらい、全社的に安全性を最重視した業務や意思決定を行う体制作りをしてもらう必要がある。
 そこで次のような制度を検討すべきだ。①稼働中の原発のすぐ近く(例えば1㌔以内)に電力会社の研修施設を建設②交代で電力会社の役員を含む全社員に毎年2泊以上、研修施設での研修を義務付ける③万が一、原発が非常事態に陥った場合、そこで研修中の社員らが必要に応じて原発内の作業を行う。
 原発の安全稼働のためには、規制や監督の強化だけでなく、電力会社の経営者と全社員に原発の危険性を「自分ごと」として感じてもらう必要がある。政府はそのための指導を徹底すべきだ。

 この「声」のコーナーは550文字以内という制約があり、あまり詳しく書けなかったので、このブログで少し補足します。

 まず、現場だけでなく、電力会社が全社的に原発の安全性を最重視する体制を取ってもらう必要性について補足します。東京電力の福島原発の現場に勤めておられる方は、事故後の対応はがんばってらっしゃると思います。しかしながら、問題は、それ以外の従業員(役員を含む)です。現場の人以外の電力会社社員は、原発の危険性を「他人ごと」のように考えているように見えます。まず、事故の原因として、経営戦略上で原発事故を軽視していたことがあげられます。東京電力は、今年の事故前まで、海外へのインフラ輸出を進める戦略をかかげていました。例えば、昨年9月に発表された東京電力 2020ビジョンには、海外事業展開が大きく打ち出されていますが、災害時の原発の問題についての記述は全くないです。それ以前にも、いろいろと危機の指摘がされていたようですが、この資料作りに関わった役員や経営企画部門の社員には、原発の危機意識がなかったということでしょう。また、想像ですが、もしかしたら、本社の経理部門が、コストや採算性のほうを重視して、安全性をより高めるための原発の現場からの予算申請の金額をカットしていたかもしれません。そのように、原発の安全性を高めるためには、現場以外にも、経理・人事・経営戦略など様々な部署の社員に、原発の安全性を最重視した業務や意思決定を行うよう徹底してもらう必要があるでしょう。そのため、設備の面だけでなく、人の面の制度も望まれるのです。

 そこで、原発近くの宿泊施設付きの研修施設で、電力会社の全社員(役員を含む、男性社員だけでもいいか)が、入れ替わりで毎年2泊程度の泊まり込みの研修を行うよう制度化することを提案します。なお、これは、1つの制度例です。他に上記目的に有効な制度が考えることができれば、この案以外でもいいでしょう。
 電力会社社員は、毎年何らかの研修(電力技術の研修、幹部向け研修、安全管理・顧客対応の研修など)をしていると思います。研修でなくとも会議でもいいですが、毎年、原発近くで2泊以上滞在すれば、原発の危険性について自らが強く感じるようになるでしょう。原発の近くで研修/宿泊中に地震があれば、ビクッとするはずです。近隣住民の気持ちが分かるでしょう。その研修には、原発内での非常時の作業の演習(半日程度か)も含めるといいでしょう。そのような演習を行っていれば、非常時に役立ちます。
 電力会社は、だいたい大きな研修施設を持っているようです。東京電力は総合研修センター(東京都日野市)、関西電力は能力開発センター(大阪府茨木市)という宿泊施設付きの大規模な研修施設を持っています。また、北陸電力は富山市内、九州電力は福岡市内、中国電力は広島市内、中部電力は愛知県日進市(人材開発センター)にそれぞれ研修施設を持っています。ですので、そのように研修を行う場所を、都市部でなく稼働中の原発の近くに変更することを義務付けるという提案です。なお、事故後、東京電力は急遽、放射線測定要員を育成する研修を行っているようです。事故の可能性はあったのですから、このような研修を普段から行っていてほしかったです。

 事故が起こってしまった今、東電以外の電力会社も、住民に対して単に「安全」と言うのでは不十分でしょう。「電力会社の全社員で原発の危険から近隣住民を守ります」というような意志・姿勢を見せてくれることが一番でしょう。自発的にはしてくれそうにないので、制度にしてはどうかという話です。
 また、監督機関よりも、電力会社のほうが危険性に関する情報をより持っているはずです。このような制度により、電力会社の社員全員が、非常に危険な原発を運用している企業としての自覚を持ち、危険性について詳しく知るようになるでしょう。それによって、原発の安全性を最重視した業務や意思決定を行うことになり、安全運用の徹底につながるでしょう。

 私は、原発推進派というわけではありませんが、風力や太陽光などの代替エネルギーで電力供給をまかなえる見通しはまだでしょうし、化石燃料に頼りすぎるのもリスクがあります。そのため、技術伝承も考慮して、最小限の原発の稼働を当面も認めていいのではと私は考えています。福島や浜岡のような地震・津波のリスクの高い原発は絶対に廃炉にすべきですが、天災面の危険性が低いところだけ、今以上に安全性の基準を高めて稼働させることにしてはどうでしょうか?安全運用を集中できるように、各電力会社1か所だけにしたほうがいいでしょう。その際、上記のような人の面の制度も取り入れることで安全性をより高めることができるはずです。

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