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September 28, 2010

サンデル教授の政治哲学の思想は知財の問題にも役立つ

 今年春、NHKのハーバード白熱教室という番組でハーバード大学のサンデル教授の政治哲学の講義が放送されましたが、先月来日して東大で同様の講義を行なった模様が、日曜にNHKで放送されていました。

 哲学は内省的なもの、というような感覚を持っている人が多いと思います。しかし、サンデル教授の政治哲学の講義では、社会やコミュニティの中での「共通善(common good)」や「美徳の促進(promote virtue)」といった問題を取り上げているため、多くの人々が関心を持つのでしょう。また、その講義が対話形式で行なわれるため、分かりやすく人気なのでしょう。それらの問題に対する講義内容や講義形式は私にも参考になります。
 
 サンデル教授は、コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的な論者です。講義を見ていると、リバタリアニズム(リバタリアン)には批判的な感じです。私自身も、コミュニティや美徳といった問題は人間として最重要と考えるため、コミュニタリアニズムの立場です。経済学的な発想に基づいて個人の自由を最重視するリバタリアンは、どちらかというと性悪説的な発想をしていて、哲学的な思考が足りないと私は思っています。

 知的財産に関しても、創造する人達のコミュニティのことを考えるべきです。発明の完成や発展のためには、研究者や開発者のコミュニティ(学会、地域クラスター、オープンソースコミュニティなど)が重要です。また、創造はとても人間的な行為であり、人間の内面的な高潔な面(社会貢献を目指す美徳など)も反映されるため、どうしても哲学的な面を考える必要があると私は考えます。

 これまで、私は、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV社)のビジネスモデルに否定的と言ってきました。リバタリアンはIV社を肯定的にとらえるでしょう。しかし、私は上記のような哲学的な面からも、IV社の事業には反対です。

 知的財産制度を検討する方々には、経済的な問題だけでなく、ぜひ哲学的な面からも熟考していただきたいです。

[追記] (2010.10.8)
 少し追加します。ハーバード白熱教室の第4回「この土地は誰のもの?」の中の財産権と自然権についての議論は、知的財産制度を考える上で特に重要でしょう。囲い込み運動によって共有地を個人の財産にしてしまうことの是非は、知的財産を強化することの問題にもつながります。また、自然権(ロックよりもホッブスのほうが先のはず)の考え方も重要です。知的財産制度での独占排他権は自然権的ではない、という指摘はずっと以前からあります。

[関連リンク]
 ・日本でも「白熱」サンデル教授(朝日新聞)
 ・来日直前のサンデル教授に独占インタビュー(WSJ:肥田美佐子のNYリポート)
 ・マイケル・サンデル教授 “正義”をめぐる独占インタビュー(SAPIO 2010年8月4日号)

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September 21, 2010

IV社にイノベーションの生態系をコントロールさせてしまうのは危険

 昨日、SankeiBizの「生かせ!知財ビジネス」のコーナーに、イノベーション実現の生態系を日本にという記事が載りました。インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV社)の日本総代表は、「イノベーションを本当に実現するための生態系“イノベーションエコシステム”」を提供する、と言っているようです。これはたいへん危険なことだと思います。これまで私は、IV社に関して、インテレクチュアル・ベンチャーズのビジネスの根本的な問題点といった批判をしてきましたが、今回も批判的にならざるをえません。

 IV社のようなファンドがイノベーションの生態系をある程度コントロールしてしまうと、発明の実施などで問題となる場合が必ず出てくるでしょう。次世代原子炉技術のように発明の実施にすんなりとつながればいいですが、実施しようとしている企業にとってのブロッキング特許をIV社が握ってしまったりすると、IV社はパテントトロール的な行動を取るかもしれません。さらには、IV社の存在が大きくなると、パテントトロールよりも大きな社会問題になることが危惧されます。ヘッジファンドが全世界の金融市場に影響を与えているように、IV社がイノベーションの流れに悪影響を与える怖れもあるでしょう。(例えば、利用者が望んでいるイノベーションでなく、利益率の高いイノベーション開発に資金が流れるとか、IV社の恣意的な好みの分野が優先されるのでは、といった心配があります)

 なお、米国のパルミザーノレポート(Innovate Americaの報告書、2004年公開)では、次のような"Innovation Ecosystem"(イノベーションの生態系)を示しています。
Innovation_ecosystem

 また、日本では、科学技術振興機構によるナショナル・イノベーション・エコシステムの構想資料があります。

 このように、イノベーションの生態系は、社会全体として考えられるべきであり、そのバランスは行政が調整しなければならないでしょう。IV社にイノベーションの生態系をコントロールさせてはならないと考えます。IV社のCEOがマイクロソフト出身というのも気がかりです。マイクロソフトはOSがほぼ独占状態になった時点で変貌し、ソフトウェア業界を独禁法違反すれすれでコントロールしてきた企業です。疑ってかかったほうがいいでしょう。
 私個人としては、発明のコモンズ化という制度改革によって、イノベーションの生態系を活性化できると考えています。

 今月前半はゼミ合宿と欧州旅行、先週は夏風邪でダウン、といった状況で、最近、ブログの更新があまりできませんでした。失礼しました。

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