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August 18, 2010

「発明のコモンズ」のオビについて

 先週このブログで紹介しましたように、小著の「発明のコモンズ」という本が今月出ます。やっと、私のところに本が届きました。まだ購入はできませんが、Amazonにも情報が載りました。来週くらいには、Amazonから購入できるようになると思います。

 この本のオビの下のほうに書かれている「2025年までに特許制度がなくなる!」というのは、私の予測というより、EPO(European Patent Office:欧州特許庁)が2007年に発行した未来のシナリオ(Scenarios for the future)という資料に書かれていることです(なお、そのサイトから全文をダウンロード可能[コメントいただき修正])。そのEPOの資料では、2025年時点で特許制度がどうなっているかについて4種類のシナリオを示しています。その3つ目のシナリオ「知識の木」(Trees of Knowledge)では、特許制度は世界中でほとんど廃止されると予想しているのです。ネットで読める日本語訳としては、要約レベルですが、経済産業研究所のサイトに、EPOの「未来のシナリオ」(Special Report)があります。

 オビには少しショッキングなことを書いたほうが書店で目にとまりやすいため、出版社には、「2025年までに特許制度がなくなる?」と、「?」付きでオビに書いてくれてもいい、と伝えたのですが、「!」付きで書かれてしまいました。そこまで確信を持った主張ではないのですが、新書なのでかなり部数を売らないといけないため、しかたないでしょう。

 このEPOの「未来のシナリオ」がなければ、私もこのような大胆な本を出すことはなかったでしょう。この資料を知る前から、著作権で利用され始めたクリエイティブコモンズのように、発明でもコモンズ的な制度を考え始めたほうがいいのでは(特許制度を一から見直すべき)と考えてはいましたが、そんなことを言っても全く相手にされないのでは、と感じていました。ですので、このEPOの資料を心強く感じたのです。

 私の主張は、現状の特許制度は局所最適(最適に見えるが、全く違う制度を考えるともっと適した制度が存在)ではないだろうかということです。パテントトロール問題やインテレクチュアル・ベンチャーズのビジネスの問題点に対して、根本的な解決手段を考えるべきだと思います。また、オープンソースやオープンイノベーションの流れから、発明のしかたや実施方法も大きく変わってきたのです。ですので、これまでの特許制度を一から見直す位のことを、多くの研究者が考え始める時期に来たと思います。私の本は、そのようなことを問題提起するための本です。

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Comments

幡鎌先生
はじめまして。小木と申します。先生の「発明のコモンズ」を拝見させていただきました。
自分もIT知財部で、サービス、ビジネスモデル発明を担当しているため、日々、これは、特許として、意味があるのだろうか、と自問自答しながら、業務を行っておりました。そんな中、先生のお考えに触れて、特許制度の限界が、ここまで来ているのかと、驚きました。非常に、賛同できるものでしたが、弁理士先生や特許事務所の今後のビジネスが心配になっています。

Posted by: Kogi | September 30, 2010 at 05:17 PM

小木さん
コメントありがとうございました。
小木さんのブログを拝見いたしましたが、企業の特許部門の方からも、サービスやビジネスモデルの発明について、特許のような独占排他権は不要なのではという疑問をお感じになるのですよね。
私の本を読んでいただきありがたいのですが、私の意見は学会等ではまだまだ少数派でして、今後、多くの人がそのような知財制度の変革を訴えないと何も変わらないかと思います。お互い、ブログ等いろいろな場で今後も意見を出して続けてゆきましょう。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: hatakama | October 01, 2010 at 03:20 PM

少し追加します。
もしも発明のコモンズ化が実現した場合「弁理士先生や特許事務所の今後のビジネスが心配」という点は、学会で弁理士の方からもご意見をいただきました。
しかし、私はコモンズ化しても発明の出願制度は残すべきと考えております。ですので、弁理士や企業内の特許部門の仕事はさほど減らないと思います。ただし、差し止めはなくなりますので、弁護士の出番は減るかもしれません。

Posted by: hatakama | October 02, 2010 at 05:08 PM

はじめまして。

> EPO(European Patent Office:欧州特許庁)が2007年に
> 発行した未来のシナリオ(Scenarios for the future)
> という資料に書かれていることです
> (なお、そのサイトには全文は載っていないようです)。
上記ページ(http://www.epo.org/topics/patent-system/scenarios-for-the-future.html )の
左側メニューにある[Download]より全文がダウンロード可能です。

また、知財研の20周年記念論文集「岐路に立つ特許制度」の
2.1章に、対応する内容(同一ではない)の和訳が掲載されて
おります。

Posted by: P2PJ | October 21, 2010 at 04:40 PM

EPOの情報、ありがとうございました。
ダウンロードメニューを見落としていたようです。失礼しました。
「岐路に立つ特許制度」については、私も入手済でして、小著「発明のコモンズ」のほうでは p.68 で紹介しております。
それでは、ありがとうございました。

Posted by: hatakama | October 21, 2010 at 05:08 PM

企業活動のインセンティブは今や日進月歩の先端技術開発に負っています。その昔に小泉政権が掲げた知財立国ビジョンもこのようなインセンティブを後押しするものであり、現下の政権与党もこの方針を概ね継承するものと考えます。しかしながら、言うまでもなく、開発と環境は場合によっては表裏の関係であり、特に先端技術についてはその開発の方向性や利用の仕方によって、生態系を含む地球環境にその経済効果を上回る重大な損害を将来もたらすと予測されるものも含まれています。薬害エイズの問題にあるように、国が一旦、新たな技術を認可してしまえば、企業はそれをインセンティブにして企業活動を行い、結果として重大な被害が出ても認可した当時は予測し得なかったとして誰の責任にもならないといった事態が頻繁に起きています。先端技術開発の企業にとってのインセンティブは、その技術に対する国の認可であり、具体的にはその技術発明に対して国から特許を付与されることです。医薬については、たとえその技術発明が特許を受けたとしても、薬事法での治験を通らない限り、商品化はできないといった事前のハードル/評価があります(薬害事件の場合はその事前評価自体に欠陥がありましたが)。
しかし、そのほかの技術については、その技術の利用が将来、生態系を含む環境にどのような負荷をもたらすのかについての環境評価がない状態で次々と市場化されています。特に特許という国のお墨付きがあれば、その特許権は企業活動における資金調達の糧となるため、権利が売買され、開発したとは別の会社がその技術を別の思惑で経済活動に利用することが想定され、一旦市場に出てしまえば、環境評価が常に後手にまわることは必至です。
このように知財立国のビジョンは、旧態依然の「市場向けの科学技術」を後押しするものであり、産業上の利用可能性と企業活動のインセンティブをその科学技術に最大に期待するものです。しかし、生態系を含む地球環境保全の観点からは、一企業の利益に任せた開発スタンスがもはや手放しで許される状況でないことは明らかで、「地球環境保全」は棚に上げてこのような「市場向け」に特化する旧来の政策を大胆に転換(パラダイム)する必要があると考えます。
特許についてさらに言及すれば、いかなる基準で技術発明に特許権を付与すべきかについて(実体事項)についての国際的な議論が“SPLT”(実体特許法条約)などの形で行われています。経済政策上の各国の利害の違いに左右され、基準についてのハーモナイズが遅々として達成されない状況です。大命題とすべき「地球環境保全」はないがしろに、技術上/法文上の命題にのみ議論が集中しており、日本も知財立国のビジョンの下で他国と同じ議論を繰り返しています。環境政策とリンクした新たな提案や議論は特許の世界では一切なされていません。
また、エイズ治療薬の問題にあるように、特許を持つ国と持たざる国との間での対立は深刻で、特許権の使用料を支払えずその薬を利用できない国の人命は開発企業の手のひらの上にあるといった異常な事態となっています。このような事態も行過ぎた「市場向けの科学技術」政策の弊害であり、全人類的な課題(例えばエイズ克服)を前にして、開発した技術を個人の占有から解放し(開発企業のインセンティブを殺ぐことなく)、共有するための新しいモデルが必要ではないかとの議論は必至です。環境保全の為の科学技術についても同様の議論があります(エコ・パテントコモンズ)。
特許政策について、私が具体的に提案したいことは、従来の「市場向け科学技術」にばかりコミットした施策や判断から脱却して、新規性・進歩性において特許性が認められる技術発明であっても、その実施において地球環境への負荷がある指数以上に推認される発明については、特許を付与しない/又は付与するとしても負荷に応じた税を開発企業に課するといった、基準/指針(「産業上の利用可能性」に加えて「地球環境に対する保全性」)を世界に率先して提案すべきと考えます。また、上述のパテントコモンズの必要がある技術発明(特に医療に関わる医薬/生化学/遺伝子工学の中で全人類的課題の解決に不可欠な発明)については、開発企業や研究機関からその発明を国や国際機関が買い取る等してプールし、経済的貧富の差からその技術の恩恵を受けられない国に技術供与するなどの施策を行うべきと考えます。それらの基準/指針、仕組みこそ特許政策上で国際的にハーモナイズすべきことではないでしょうか。
環境評価の基準としては、例えば、その技術発明を実施するにあたって、利用する資源と仕入れ商品・購入部材で利用する資源の採取から加工までに必要な消費エネルギー、直接消費する消費エネルギー、CO2排出量などを総和したものを指数化した数値、その技術を用いた製品のリサイクル度、環境(水、大気、土壌など)に放散された場合の影響等、生態系に対する負荷(環境ホルモン/食物連鎖等)があります。この基準を特許の実体審査段階に採用し、お墨付きを与えるか否かの審査段階から生態系を含む地球環境保全を強力に目的化する施策が必要であると考えます。地球という病気の患者に医師/薬剤師/栄養士がそれぞれの基準で与えるべきもの/与えてはならないものを決めると同じことです。特許の実体審査段階に反映させることで、企業の開発トレンドも大きくシフトすることになると予想されます。そういう企業に銀行は金を貸すことになるでしょうし、また、消費者も、単に安くて便利なサービスや製品を提供する企業よりも、多少価格は張っても地球環境保全の基準をクリアしたサービスや製品を提供する企業を評価する意識に変わることが予想されます。
現在、地球規模の生態系に対する負荷が懸念される技術開発としては、カーボン・ナノ粒子があります。ナノ粒子は極めて微小であることから、人体の血液脳関門さえも通過します。環境(水、大気、土壌など)に放散された場合の影響、食物連鎖による生態系全体への影響等、未知の部分が多く、ナノ粒子の特性や挙動が時間の経過と共に(特に環境中に放出された後に)、どのように変化するのかは、一旦、環境に拡散してしまった後では見極めることは困難です(回収も困難)。またナノ粒子の環境へのリスク評価(有害性評価、暴露評価)に向けた研究は細々と大学等で行われているだけで、その技術発明について特許はそういった懸念とは別に開発企業に付与され、技術は次々と市場化されています。
先の戦争以来の「市場向けの科学技術」という旧態依然の産業のあり方や、特許庁や経済産業省内の狭い視野や目的での特許行政(技術上/法文上の命題ばかり細々といじくる)ではなく、政治主導にて国際的な視野に立った大胆な特許施策の提言を期待するものです。
従来の「足らざるは何かを知る(開明)」から「過ぎたるは何か知る(開悟)」への社会・経済の根本思想の転換(パラダイム)が要求されているのかもしれません。

EPOの未来のシナリオは上述のパラダイムの到来を予見しているように思えます。特許に関わる人の多くにとっては単なるSFか馬鹿げたことにしか思えないかもしれませんが、「市場向けの科学技術」は各技術分野において、技術的特異点の近傍に到達しつつあり、地球環境保全の観点からは、企業利益に任せた開発スタンスが手放しで許される状況になりつつあることだけは確かなようです。

Posted by: Ristenpart | November 22, 2010 at 12:47 PM

「企業利益に任せた開発スタンスが手放しで許される状況になりつつあることだけは確かなようです。」ではなく、
「企業利益に任せた開発スタンスが手放しで許されない状況になりつつあることだけは確かなようです。」の誤りでした。訂正いたします。

Posted by: Ristenpart | November 22, 2010 at 01:10 PM

Ristenpartさん
コメントありがとうございました。
ご指摘の通り、「市場向け科学技術」を促進するだけでなく、環境のことを考慮したインセンティブ設計の工夫は確かに望ましいですね。特許の実体審査において、環境への負荷を考慮することで、環境に優しい技術革新を促進できるでしょう。ただし、そのような実体審査の実務はかなり難しくなると思われます。述べられているような「環境への負荷に応じた税」のほうが、適用しやすいと思われます。
私としては、コモンズ化を提唱しているため、どちらかというと、環境に優しい技術が独占されずに広く使われるべき、というような方向で考えております。ですので、特許の実体審査において環境への負荷を考慮するよりも、実施段階で何らかの工夫を考えたほうがいいのでは、と考えております。
それでは、ありがとうございました。

Posted by: hatakama | November 24, 2010 at 07:03 PM

2010年の8/12”「発明のコモンズ」のオビについて”のブログ中から、私(弁理士)が弁理士会の月刊誌「PATENT」に投稿した原稿に先生の記載内容とコメント中からいくつかを引用させていただきましたが、弁理士会の編集部ではブログの責任者から許可を得ることを要請されておりますが、鎌幡先生からの諾否をいただきたく、この「comment」で先生との連絡を図りました。
イノベーションにとって特許自体があまり貢献していないのではないか、特に「プロパテント政策」はほとんどイノベーションを生じさせなかったのではないかとの疑問の下、「PATENT」にイノベーションと特許のかかわりについての原稿を投稿しました。

Posted by: 増田竹夫 | November 28, 2013 at 07:49 AM

増田さま
コメント、ありがとうございました。
別途メールでも返信いたしましたように、私のブログ中の文章を引用していただいて結構です。
今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: hatakama | November 28, 2013 at 09:31 PM

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