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February 10, 2010

インテレクチュアル・ベンチャーズ社のビジネスモデルは規制が必要(「知財の利回り」を読んで)

 知財の利回りという本を先月買いました。主にインテレクチュアル・ベンチャーズ社(IV社)について書かれた本です。ざっと読みましたが、IV社についてよく調べていると感じました。特に、1章は読みごたえありました。しかし、この本の著者は、問題の本質を深く突き詰めようとしていないように感じました。昨年、このブログに、インテレクチュアル・ベンチャーズのビジネスは注意要と書きましたが、この本を読んで、そのような懸念はさらに強くなりました。

 なお、土生弁理士は、この本の書評として「IVのビジネスモデルに近いのは、どちらかというと不動産の私募ファンド」と分析しておられます。株式よりも不動産への投資に近いというのは確かでしょう。

 まず、IV社のようなインベンション・キャピタルによって、次のような効果が期待できます。
 ・発明のための資金の回り方がよくなる。
 ・不要な特許を購入してもらえる。
 ・特許ポートフォリオを形成するので、パテントプールのようにライセンスしやすくなる。

 他にも、IV社はインベンション・キャピタルの社会的な有用性をいろいろとうたっています。しかし、このようなファンドが、発明の実施を阻害する恐れも多分にあります。IV社が集めた特許が、メーカーが自社で研究した同様の発明よりも少し早く出願されたものであった場合、そのメーカーにとっては二重投資になるのでライセンスには躊躇するかもしれません。そのため、発明の実施は遅れることになりかねません。パテントトロールほど悪質ではないかもしれませんが、「地雷」のような存在となります。そのようなことが多くなれば、メーカーが自社で研究するインセンティブは薄れるかもしれません。また、単に、ライセンス料の交渉がまとまらず、実施できないことも十分ありえます。そのようにイノベーション促進にならない場合も少なくないでしょう。

 IV社は、まるで「地上げ屋」のようだと言われますが、IV社のようなインベンション・キャピタルを行う企業がいろいろと生まれると、インベンション・キャピタルの間で「特許ころがし」のようなことが行われるかもしれません。また、金融商品として、特許ポートフォリオを対象とした証券化などが考えられるかもしれません。そのように発展してしまうと、怖いのはバブルです。金融の世界では、バブルは避けられない現象でしょう。バブルが弾けると、その後遺症として、資金の引き上げが行われるのが常です。つまり、発明のための資金が急にしぼんでしまうことで、イノベーションに大きく影響してしまうのです。なお、発明に投資することは、先物取引に似ているようにも感じられます(違う面も多いですが)。普通の先物取引と違い独占排他権付きなので、かなりいやらしいです。

 健全には、実施企業/素材開発企業/研究開発企業に直接資金が投じられるべきです。そのほうが発明の実施に近づきます。社外のアイデアや発明は、イノセンティブ等の仲介企業を通して、自分で集めることが望ましいでしょう。IV社のように、間に入って特許ポートフォリオを築くような企業は、発明の実施にとって望ましくありません。IV社によって、一時的に研究のための資金の回り方がよくなるかもしれませんが、マイナスの面も見ておくべきです。そして、規制すべきか否かを議論するべきです。独占禁止法上、特許を買い集めて市場を独占することは違法とみなされるはずと言われています。しかし、自分で事業化せずに、単に特許を買い集めて、通常実施権(非独占)で複数企業にライセンスすることは、現在の法律では違法にはならないでしょう。ですので、インベンション・キャピタルには、何らかの規制を考えるべきでしょう。例えば、自ら実施しない企業が特許を買い集めた場合、差し止め請求権を制限するのがいいでしょう。強制ライセンスは手続きで複雑で使いにくいので、差し止め請求権の制限がふさわしいと思います。一般企業はCSR等の倫理感を持つ必要がありますが、投資ファンドには倫理感はありません。高い利回りを求めて、何をしてくるか分からないのです。特許の独占排他権は、発明の奨励のためであって、金融商品としての高い利回りのためではないのです。

 長期的には、独占排他権の無い知財制度に移るのが理想的だと私は考えています。先月オーストラリアで発表した論文は、そんな未来がテーマです。サービス分野では完全なコモンズ制度が可能と思っています。また、工学的な分野では、税金のように製品販売価格に発明の分を1割程度(すべてパブリックドメインかオープンソースならばゼロ)上乗せして販売し、それを発明の貢献者に分配する制度も提案しています。つまり、どの発明でも自由に利用できるが、社会的に有益な発明した人/企業には分配が多くなるという仕組みです。このような制度のもとでも、IV社のようなことが可能でしょう。将来の配分を予想して、その配分の権利を譲渡してもらう代わりに、事前に発明資金の前払いを行うビジネスです。このようなビジネスは、パテントトロールのようには決してならないので、とても健全なビジネスになると思います。

[追記] (2010.2.13)
 とても重要な指摘と思われるため、この本からIV社に関しての元キヤノンの丸島儀一氏の発言を引用しておきます。p.164

 ノーベル賞級の優秀な研究者に技術のトレンドを読ませ、今後どういう技術が必要になるかのポートフォリオを組んで、特許を取ったり買い集めたりするようだ。でも、最初に取る特許はあくまで机上のもので、先読みの特許にすぎないから、それがすぐにイノベーションにつながるわけではない。だから、投資ファンドを通して特許取りや買い集めが活発になれば、それでイノベーションが促進されるという考えは私には理解できません。むしろ、イノベーションの促進をガード(保護)するのが特許本来の目的であって、IVのビジネスモデルは本末転倒ではないかとさえ考えています。

 ブログ検索したところ、メーカーの知財部にお勤めのUMEさんのブログでも取り上げられていました。知財に関わる多くの方に、IV社の問題を考えていただきたいです。

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Comments

トラックバックありがとうございました。
(私の方はあまり大した記事ではないので恐縮です)
IVのビジネスは注意すべきだし、IVのような企業に権利行使の制限を設けるという話は、ごもっともだと思います。

私の感覚としては、大企業にとってIVはやっかいな存在となりそうですが、ベンチャー企業や大学にとっては、IVによってより多くのチャンスがもたらされるのではないかという気がします。
資金調達手段の幅も広がるし、今まで大企業に独占されていたような事業にも参入し易くなるかもしれません。

今後、IVがどうなっていくのか非常に気になるところです。

Posted by: UME | February 15, 2010 at 11:24 PM

UMEさん
コメントありがとうございます。
「ベンチャー企業や大学にとっては、IVによってより多くのチャンス」というのは言えなくはないかもしれませんが、IV社が見向きもしない分野(知財の利回りの低い分野)には、資金が回りません。ですので、望ましくは、ベンチャー企業や大学の研究活動に直接資金が回るほうがいいでしょう。また、知財の権利を広く抑えられると、大企業だけでなく、ベンチャー企業にとっても困る事態になりかねません。ですので、IV社を期待しないほうがいいと、私は考えております。
それでは、ありがとうございました。

Posted by: hatakama | February 17, 2010 at 09:55 AM

いくつかご意見をお願いします。
1.「地雷」との表現をしていますが、USPの場合サブマリン特許が既にあり、このようなものがある事を前提に企業側は活動していると思われますが。日本のようにクロスが一般的な地域に限定すれば、書かれていることは納得感がありますが。
2.「実施企業/素材開発企業/研究開発企業に直接資金」との表現がありますが、一番厄介なのはどのような資金であれUSでは特許の権利が個人に属することです。
3.「独占排他権の無い知財制度」とありますが、これを実施すれば企業の立場で特許出願の意味がなくなると思います(競争原理を阻害)。また、10%のロイヤリティは非現実的で受ける企業はまず皆無でしょう。より多くの資金を持つ団体以外は排除されることになりかねません。

IVについて、否定も肯定もするつもりはありませんが、その前に上記の点が非常に気になります。

Posted by: あやや | June 25, 2011 at 11:09 PM

 あややさん、コメントありがとうございました。
 ご質問の点について回答させていただきます。

1. 特許が「地雷」のように使われることは現在一般的なのかもしれませんが、特許制度本来の目的「産業の発達に寄与」につながらない不毛な使い方であることを言いたかったために使いました。大企業同士であれば、クロスライセンスを結ぶのが望ましいのかもしれませんが、ベンチャーはそうはいかないので、現在の特許制度では難しいでしょう。

2.「一番厄介なのは ~ USでは特許の権利が個人に属することです」という事情は知りませんでした。個人発明家の重要性は分かりますが、企業に出資する場合は、IVのような企業を介さずに、企業の使命などを考えて直接出資するほうが社会的には望ましい、ということを私は言いたいのです。

3.「独占排他権の無い知財制度」というのは、他にもいろいろな人が提唱しています。例えば、Boldorin & Levineの本では、"competitive property" という言葉が2箇所で出てきます。私は、先行者優位を強めたり、ライセンス交渉不要で実施料を分配する案を具体的に提案しているのです。独占はできないが競争力を強めるという点で、発明の出願の意味は保てると思っております。なお、「税金のように製品販売価格に発明の分を1割程度上乗せして販売」と書きましたが、これは最近の論文では「登録発明実施料分配制度」に改めました。詳細は、今月25-26日に行われた日本知財学会2011年大会で小生が発表した論文(2A1)をご覧ください。もともと「10%のロイヤリティ」という意味ではありません。誤解されるような表現で失礼しました。

 今後は、できましたら、日本知財学会の大会のような場で直接議論できればと存じます。よろしくお願いします。


Posted by: hatakama | June 28, 2011 at 10:30 AM

川上から川下までの業界で30年以上モノづくり、製品づくりの研究を行って来ました。その立場から一言。
まず、特許についてですが、現実問題、特許があるから製品ができた、という経験は残念ながら皆無です。
技術もできた、製品化準備もできた、という段階で誰かが持っている特許が抵触している、ということがわかってライセンス料を支払ったり、そうなることを防御するために特許を仕方なし取得する、というのが現実だと思います。
特許を読んで内容を実務として実施できた方ってどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
一方、視点を変えると所謂特許業界はそれ自体が訴訟ならずとも多額のお金が動く巨大産業であると言えると思いますが、そこで動く資金は基本的には発明者や研究者にはほとんど戻らないため、イノベーションの再生産につながっていません。
IV社に関しては、大きな視点で見るとそのような特許業界内での適応放散のひとつに過ぎず、毀誉褒貶すべてその業界内の波ではないとか、と外側から見ていると感じております。
唯一、発明者、研究者にとってはIV社は資金を直接本人に還元してくれる、という意味では、それによってさらに研究を深めることもできますし、他のいかなる知財関連ビジネスより、私たち寄りであるとは言えるのかもしれません。

Posted by: 神保 悟 | June 29, 2011 at 12:50 PM

神保さん
コメントありがとうございます。

確かに現在の特許制度の運用では、発明者や研究者に益は少ないかもしれませんが、「動く資金は基本的には発明者や研究者にはほとんど戻らないため、イノベーションの再生産につながっていません」ということは、私には解せません。直接的な発明の報酬(対価)はあまりもらえてないかもしれませんが、企業内で研究者/技術者の能力を評価するのに、特許も評価対象にするところが少なくないと思います。

「IV社は資金を直接本人に還元してくれる」ということですが、これも注意が必要だと思います。もしも、IV社が特許の売込みを代行してくれるだけの組織でしたら、歓迎すべき存在でしょう。しかし、IV社はファンドなので、最終的なミッションは利回りを高めることにあるはずです。ファンドは手段を選びません。集めた特許を使ってパテントトロールに近いことをしてくるはずです。IV社は多くの弁護士で武装しています。現に海外では特許訴訟も起こしています。実施する企業ともめた場合など、実用化が遅れることもあるでしょう。そうなると、社会的には望ましいことではありません。発明に関わる方々は、ファンドのような金融業界の人達とあまりつきあったことがない方が多いようです。そのため、IV社の甘い言葉を信じてしまう方が多いようです。IV社が出資者に対してどんな話をしているかを想像してみていただきたいです。

なお、小さな研究開発企業が特許(技術)で儲けるチャンスは増えそうです。オープンイノベーションを行う企業が増えているため、今後、特許の売込みができやすくなるでしょう。そのように直接企業に売り込む方が、イノベーションは進みやすいと思います。

Posted by: hatakama | June 30, 2011 at 11:41 PM

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