知財の利回りという本を先月買いました。主にインテレクチュアル・ベンチャーズ社(IV社)について書かれた本です。ざっと読みましたが、IV社についてよく調べていると感じました。特に、1章は読みごたえありました。しかし、この本の著者は、問題の本質を深く突き詰めようとしていないように感じました。昨年、このブログに、インテレクチュアル・ベンチャーズのビジネスは注意要と書きましたが、この本を読んで、そのような懸念はさらに強くなりました。
なお、土生弁理士は、この本の書評として「IVのビジネスモデルに近いのは、どちらかというと不動産の私募ファンド」と分析しておられます。株式よりも不動産への投資に近いというのは確かでしょう。
まず、IV社のようなインベンション・キャピタルによって、次のような効果が期待できます。
・発明のための資金の回り方がよくなる。
・不要な特許を購入してもらえる。
・特許ポートフォリオを形成するので、パテントプールのようにライセンスしやすくなる。
他にも、IV社はインベンション・キャピタルの社会的な有用性をいろいろとうたっています。しかし、このようなファンドが、発明の実施を阻害する恐れも多分にあります。IV社が集めた特許が、メーカーが自社で研究した同様の発明よりも少し早く出願されたものであった場合、そのメーカーにとっては二重投資になるのでライセンスには躊躇するかもしれません。そのため、発明の実施は遅れることになりかねません。パテントトロールほど悪質ではないかもしれませんが、「地雷」のような存在となります。そのようなことが多くなれば、メーカーが自社で研究するインセンティブは薄れるかもしれません。また、単に、ライセンス料の交渉がまとまらず、実施できないことも十分ありえます。そのようにイノベーション促進にならない場合も少なくないでしょう。
IV社は、まるで「地上げ屋」のようだと言われますが、IV社のようなインベンション・キャピタルを行う企業がいろいろと生まれると、インベンション・キャピタルの間で「特許ころがし」のようなことが行われるかもしれません。また、金融商品として、特許ポートフォリオを対象とした証券化などが考えられるかもしれません。そのように発展してしまうと、怖いのはバブルです。金融の世界では、バブルは避けられない現象でしょう。バブルが弾けると、その後遺症として、資金の引き上げが行われるのが常です。つまり、発明のための資金が急にしぼんでしまうことで、イノベーションに大きく影響してしまうのです。なお、発明に投資することは、先物取引に似ているようにも感じられます(違う面も多いですが)。普通の先物取引と違い独占排他権付きなので、かなりいやらしいです。
健全には、実施企業/素材開発企業/研究開発企業に直接資金が投じられるべきです。そのほうが発明の実施に近づきます。社外のアイデアや発明は、イノセンティブ等の仲介企業を通して、自分で集めることが望ましいでしょう。IV社のように、間に入って特許ポートフォリオを築くような企業は、発明の実施にとって望ましくありません。IV社によって、一時的に研究のための資金の回り方がよくなるかもしれませんが、マイナスの面も見ておくべきです。そして、規制すべきか否かを議論するべきです。独占禁止法上、特許を買い集めて市場を独占することは違法とみなされるはずと言われています。しかし、自分で事業化せずに、単に特許を買い集めて、通常実施権(非独占)で複数企業にライセンスすることは、現在の法律では違法にはならないでしょう。ですので、インベンション・キャピタルには、何らかの規制を考えるべきでしょう。例えば、自ら実施しない企業が特許を買い集めた場合、差し止め請求権を制限するのがいいでしょう。強制ライセンスは手続きで複雑で使いにくいので、差し止め請求権の制限がふさわしいと思います。一般企業はCSR等の倫理感を持つ必要がありますが、投資ファンドには倫理感はありません。高い利回りを求めて、何をしてくるか分からないのです。特許の独占排他権は、発明の奨励のためであって、金融商品としての高い利回りのためではないのです。
長期的には、独占排他権の無い知財制度に移るのが理想的だと私は考えています。先月オーストラリアで発表した論文は、そんな未来がテーマです。サービス分野では完全なコモンズ制度が可能と思っています。また、工学的な分野では、税金のように製品販売価格に発明の分を1割程度(すべてパブリックドメインかオープンソースならばゼロ)上乗せして販売し、それを発明の貢献者に分配する制度も提案しています。つまり、どの発明でも自由に利用できるが、社会的に有益な発明した人/企業には分配が多くなるという仕組みです。このような制度のもとでも、IV社のようなことが可能でしょう。将来の配分を予想して、その配分の権利を譲渡してもらう代わりに、事前に発明資金の前払いを行うビジネスです。このようなビジネスは、パテントトロールのようには決してならないので、とても健全なビジネスになると思います。
[追記] (2010.2.13)
とても重要な指摘と思われるため、この本からIV社に関しての元キヤノンの丸島儀一氏の発言を引用しておきます。p.164
ノーベル賞級の優秀な研究者に技術のトレンドを読ませ、今後どういう技術が必要になるかのポートフォリオを組んで、特許を取ったり買い集めたりするようだ。でも、最初に取る特許はあくまで机上のもので、先読みの特許にすぎないから、それがすぐにイノベーションにつながるわけではない。だから、投資ファンドを通して特許取りや買い集めが活発になれば、それでイノベーションが促進されるという考えは私には理解できません。むしろ、イノベーションの促進をガード(保護)するのが特許本来の目的であって、IVのビジネスモデルは本末転倒ではないかとさえ考えています。
ブログ検索したところ、メーカーの知財部にお勤めの
UMEさんのブログでも取り上げられていました。知財に関わる多くの方に、IV社の問題を考えていただきたいです。
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