[書評] クラウド化する世界
先月出版された、ニコラス・G・カーによるクラウド化する世界という本を本日読みました。この本はお勧めできます。私には知っている内容が多かったので、2時間程度で読めましたが、クラウドコンピューティングについてあまり知らない人は、何日かかけてじっくりと読むといいでしょう。
原題は、"The Big Switch: Rewiring the World, from Edison to Google" です。昔、電力のインフラが構築された頃の出来事と、現在、コンピューティングのインフラ(クラウドコンピューティング)が広まろうとしていることを重ね合わせながら、今後、世界がクラウドコンピューティングを広く利用するようになると予測している本です。このように、難しい内容を分かりやすく表現しています。
この本の著者のニコラス・カーという名前をどこかで聞いたことがあると思っていましたが、P.3(プロローグ)に書かれているように、5年程前、ハーバード・ビジネス・レビュー誌にもはやITに戦略的価値はないという論文を書いている人でした。ITにお金を使うなという本も書いています。
「クラウド化する世界」の中で、ニコラス・カーは、クラウドコンピューティングが広く普及するであろう理由として、「規模の経済」でコンピューティング利用が大きく効率化されることを何箇所かで示しています。電力インフラ供給に例えて、「情報の発電所」(P.70)という言い方もしています。例えば、グーグルは典型的な企業の十分の一のコストでコンピューティング処理を利用できる(P.80)そうです。
なお、クラウドコンピューティングの「規模の経済」については、日経コンピュータ記者によるクラウドは“規模の経済”の必然というITpro EXPOの講演でも言われています。その講演では「データセンターを安く高密度に展開し,リソースを遊ばせない事業者がクラウド時代の勝者になる」と予測しています。
アマゾンがS3やEC2というクラウドサービスを始めた理由が、P.89に示されています。これは知りませんでした。アマゾンは、猛烈なクリスマスセール週間に対応できるだけの大きさにシステムを構築しなければならなかったが、それは年にたった一回しか巡ってこないため、システム容量の大部分はいつも使用されないままだった。システムを貸すことによって、アマゾンは設備稼働率を上げて、コンピューティング全体の経費を大幅に削減することができる。という理由でした。巨大ネットショップ特有の悩みを解決するためのサービスだったのです。
後半は、クラウドコンピューティングにからんだ諸々の話題が書かれています。知っておいたほうがいいような話がほとんどです。
怖い話も出てきます。P.275に、次のような話があります。
インターネットの能力、範囲および有用性の拡大がもたらした最も革新的な結果は、コンピュータが人間のように考え始めることでなく、我々がコンピュータのように考えることなのだ。リンクを重ねるたびに、我々の頭脳は「"ここ"で見つけたもので"これを行え"、その結果を受けて"あちら"に行く」ように訓練される。その結果、我々の意識は希薄になり、鈍化してゆくだろう。我々が作っている人工知能が、我々自身の知能になるかもしれない。こんなことを言っている人はいます。POLAR BEAR BLOGにも紹介されています。こうならないように、IT教育において気を付けないといけないでしょう。
訳はほぼ問題無いと思いましたが、一箇所、P.192の "transparent personalization" は、「透過的な個人化」と訳していて分かりにくいです。「人に気付かせないで、個人毎に変えている(パーソナライゼーションしている)」といった表現のほうが分かりやすいでしょう。
クラウドコンピューティングが広まって、社会のインフラになると思われるため、インフラ独特の次のようなことを考え始めるべきでしょう。
・独占問題。(社会インフラのユーティリティ事業では、独占は許されないため。)
・国内で提供するべきかという問題。(現状、主なクラウドコンピューティングのサーバは海外にあるはず。そのため、例えば、海底ケーブルをテロで破壊されるなどされると、日本では大きな問題になる。)

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