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November 14, 2008

ロング・テールは嘘?(DHBRの論文に対して)

 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌2008年12月号にロング・テールの嘘(アニタ・エルバース著)という論文が載っていました。
 この論文は、「現状ではロング・テール現象が言えない」ということを示した論文です。まず、ホーム・ビデオの売上について、2000年と2005年のデータを比較しています。「2000年と2005年を比べると、一週間で数百しか売れないタイトルはどの週でもほとんど二倍になっている。しかし、まったく売れないタイトルの数は四倍に増えていた。」というような結果などから、現状でのロング・テール現象を否定しています。また、音楽産業でも同様な結果が出ていると、著者は指摘しています。

 しかし、この論文では流通の仕組みの変化(効率化)を全く考慮していません。流通の仕組みの変化から、今後の傾向を予測しようとしていないのです。音楽配信では、"digital only" のものも増えています。その場合、パッケージ製造のコストが不要になるため、今後もテールが長くなってゆくのは間違いないでしょう。テールの先で全く売れない商品も増えるでしょうが、パッケージ製造のコストがなくなれば、ある程度売れればビジネスになるため、テールを狙ったビジネスが衰えることはないと思われます。

 そのように、ロングテール現象は、ニッチ商品の販売量の増減の傾向としてのみ見るのではなく、「不足の経済」から「豊穣の経済」へと向かう中での自然な流れ(結果)として考えたほうがいいと思います。
 特に、ネット企業はロングテール現象を意識した戦略(ロングテール現象を狙うか、または狙わないか)をはっきり立てたほうがいいでしょう。著者は、「ロング・テールにおいて大きな利益が上げられるかどうか、疑わしい」と述べていますが、もともとロング・テールは利益を生みにくいので、何らかの工夫(アマゾンであればe託販売など)で、利益を少しずつ生むような経営努力が不可欠でしょう。このような観点から見ると、この論文での「つくり手へのアドバイス」は、かなり変です。

 また、「The Winner-Take-All Society(ウィナー・テイク・オール)」というフランク/クックの本から、「歌劇カルメンの世界最高の録音が入手できたとしたら、それに劣る録音をだれが聴くだろうか。」という文を引用もしています。しかし、熱烈なクラシックファンならば、1つの曲のCDをいくつも持っている人が多いです。カルメンでも、「このCDのホセが最高」「このCDのミカエラが魅力的」「このCDのオケの演奏が一番」といった理由で、いろいろなCDを持っている人がいるでしょう。変わった録音があれば、ほとんど売れていないものでも買うかもしれません。このように「オタク」の存在を考えると、ロングテールは必ず存在するのです。

 ですので、「ロング・テールは嘘」というのでなく、この論文の著者が調べたデータの範囲では、ロング・テールは見いだせなかったという程度の論文と思っていいと思います。

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