先月位から、知的財産権/技術革新/インセンティブに関する経済学の本をいろいろと読んでいます。これまで、クリステンセンやロジャーズなどの本は読んでいましたが、もう少し広い範囲について経済学からどのような分析がされているのか知っておきたいためです。例えば、経済学の考え方で分かったのは、ミクロ経済学の生産関数の考え方でプロセスイノベーションについてある程度分析できる、ということです。ただし、プロダクトイノベーションに関しては、一般的な経済学の考え方では分析するのは難しそうです。いろいろと特殊な考え方が出てきます。
そのような経済学の書籍の中で、ジョン・マクミランによる市場を創る ― バザールからネット取引までという本は勉強になりました。経済学者による「市場」に関する本ですが、特許に関する章やネット取引に関する記述があったので、一通り読みました。知的財産制度に対して、市場の観点からかなり批判的な内容でした。その批判ですが、特許制度の根本的な問題点を的確に捉えていると感じました。ここでは、その本の中から特許に関する内容を抜粋しておきます。
P.47
「特許制度は、理想的な解が存在しない問題に対する妥協の解決策である。」
「しかし、特許システムにはマイナス面もある。」
「特許は、発明を生み出すことに成功しているが、一方でその使用を抑制してしまう。」
P.149
「新しいアイディアは経済を牽引する。」
「アイディアの市場が機能することは、一国の良好な経済活動のために不可欠である。その市場がうまく機能するためには、知的財産権の保護は過少でも過大でもいけない。」
「アイディア市場がうまく機能するためには、特別な種類の財産権が存在する必要がある。知的財産権は、アイディアが広く伝達されうることを認識したものでなければならない。アイディアの財産権にできることはせいぜい、アイディアの利用のされ方をコントロールすることである。」
P.152
「特許によってプレミアムが稼げるとの期待は、イノベーション努力に拍車をかけることになる。特許は創造性を促進する。しかしながら、特許には欠点もある。特許は、法的に認可された取引の制限である。一度アイディアがこの世に存在するようになると、その使用を制限することは非効率である。」
「アイディアに対する独占権を与えることは、それを創造する人に対して報いることに成功しているが、それにはアイディアを過度に使用しづらいものにしてしまうというコストが伴う。特許は、文字通り、高い値段を設定するライセンスなのである。」
「理想的には、イノベーターはアイディアの生産的な使用を阻害することなく、報酬を受け取るべきである。しかし、これを実現する方法を見つけることは難しい。」
P.165
「特許はアイディアの財産権を定義する唯一の方法ではない。」 として、特許の買上げメカニズムや、研究トーナメントを紹介。
なお、このような特許に代わる制度(例えば、パテント・バイアウト)の提案については、スザンヌ・スコッチマーによる知財創出 イノベーションとインセンティブという本に詳しく解説されています。
どうでもいい話ですが、マクミランの本の中のP.155のある「マイクロソフト、0と1の特許を取る」という風刺的記事の原文は、Microsoft Patents Ones, Zeroes (The Onion. March 25, 1998)です。特に他社の回避策が傑作です。以前から知っていましたが、今読んでも笑えます。
こういった経済学の観点からの本を読んでいると、現在、特許制度を根本的に考え直すような時期にあると切に感じます。マクミランの本の中の「特許制度は、理想的な解が存在しない問題に対する妥協の解決策」というのは、とても適切な表現だと感じました。また、「知的財産権の保護は過少でも過大でもいけない」というのは、レッシグが「知的財産を保護するのは、それを作る十分なインセンティブを確保するためだけだ」と言っているのと共通しているように感じます。やはり、過大でない知的財産権についてもっと考えてゆくべきでしょう。私の考案中の新しい知的財産権「元祖権」は、発明の使用をなるべく抑制させない権利であるため、このような権利について、世の中に問うてゆくことは有意義である、とあらためて感じました。
そこで本日、元祖権の概要という資料をWebに公開しました。学会の場以外でも、元祖権についてもっと広く発信してゆきたいと考えています。
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