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November 07, 2006

「ソフトウェアパテントは必要悪 論」は大きな間違い

 CNETのブログに「ソフトウェアパテントは必要悪」論というエントリがありましたが、この内容を鵜呑みにしないほうがいいでしょう。

 「ソフトウェアの特許を簡単に認めすぎている現行の法律」という現在認識は、日本では誤りです。先月24日のエントリで示したように、特に、ビジネス方法特許の分野は審査が厳しいですが、他のソフトウェア特許も審査はそれほど甘くはありません。

 欧州では、さらにソフトウェア特許に対して厳しいですが、オープンソース(特にOS)が特許で訴えられて差し止めされる、といった事態を警戒しているという背景が大きいようです。
 「米国の(ソフトウェアパテントの取得に対しての)寛容なアプローチが、テクノロジー業界におけるイノベーションや投資を増加させているという証拠は一切ない」という英国の法廷の裁判官の発言が引用されていますが、「イノベーションや投資を全く増加させていない」という証拠も出ていないわけで、現状、米国のアプローチを全く否定することはできないのです。ちなみに、ベンチャーキャピタルは一般的に、特許を持っていたほうが投資に熱心になります。特許は参入障壁として働きますし、もしも事業がうまくいかなくて精算する際に、特許を売却できるからです。

 「日本と米国は、優秀なソフトウェアエンジニアであれば、誰でも思いつきそうなアイデアをパテントとして認め過ぎである。」という認識も一般には正しくありません。中島さんのような超優秀なソフトウェアエンジニアにとっては簡単なことかもしれませんが、一般のソフトウェアエンジニアには特許にするのはそんなにたやすいことではありません。私もいくつかソフトウェア特許を持っていますが、まずアイデアを生むのに調査や発想にすごく時間がかかりますし、特許資料にしあげるのも時として学術論文を書くくらいエネルギーを使います。まれに、幸運にも、十分に練らないアイデアが特許になることもありますが、これは例外的なもので割合としては少ないです。

 「だからと言ってパテントを申請しておかないと、他の会社に先に申請されて痛い目に会うかも知れない。そんな理由だけで、弁護士に高いお金を払ってせっせとパテントを申請しているのが、今のソフトウェア会社の現状である。」という認識も正しくありません。中島さんのお付き合いしている企業の多くはそうかもしれませんが、一般化すべきでありません。知的財産権の意識の高い企業は、このような「必要悪」といった意識はなく、研究開発への投資の重要性と特許化による知的財産の蓄積・活用を理解しているのです。

 ソフトウェア特許を軽視する発言はブログによく見かけますが、IT分野のイノベーションを低めることになりかねないので危惧しています。最近ネットベンチャーの特許出願が少なくなっているのは特に問題です。開発合宿のような方法でちょっとした機能をたった1日で作ってしまうよりも、特許にする位、アイデアを十分に練ることが望ましいのです。技術力は特許で評価される場合が多いことを、ソフトウェア分野の企業でも再認識するべきです。

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Comments

 TBありがとうございます。こういった反対意見を持つ方からもTBをいただける、ということがブログ文化のすばらしさだと考えています。

 ちなみに、誤解していただきたくないのですが、私は現行の法律がある限り、ベンチャー企業だろうと、大きな企業だろうと、特許は積極的に申請すべきだと考えているし、私自身もしています。

 ただし、ソフトウェアを生業としているものとして言わせていただければ、ことソフトウェアに関しては、「アイデアを思いつくこと」よりも、「それを応用して実際に世の中に役に立つものを作る」方が何倍も何十倍も難しいし、労力もかかるので、そこに大きな矛盾を感じています。

 私としては、「単なるアイデア」の権利化は認めずに、「実際に役に立つソフトウェアやサービス作り」をした会社に利益がもたらされるような社会の方が、エンジニアにとって働き甲斐のある社会になると考えています。

Posted by: Satoshi | November 08, 2006 at 09:24 AM

中島さん
 おこしいただき、ありがとうございます。
 確かに「単なるアイデアの権利化は認めずに」という方法もありますが、事業化するかの判断は特許を出願した後で行うことが少なくないので、難しいと思われます。私の場合も、以前大企業に勤めていたので、特許出願(後に成立)したアイデアが途中でつぶされて実用化しないことがありました。
 若いエンジニアの方々には、「単なるアイデアの特許」はこれまでのエンジニアのアイデアの屍と考えて、それを乗り越えるような特許を発明して実現してもらいたいです。
 強く非難する気はありませんでしたが、「ソフトウェアパテントは必要悪」と言ってしまうと、若い人がソフトウェア特許にしらけてしまうのでは、と危惧されましたので、トラックバックさせていただきました。
 失礼いたしました。

Posted by: hatakama | November 08, 2006 at 10:07 AM

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